相続

結婚した夫婦の3組に1組が離婚する、と言われています。

離婚も多ければ、再婚も多くなっています。

前妻の子の相続権

お子さんがいる夫婦が離婚して、妻が子供の親権、監護権を取得して子供を引き取り、その後、妻が子を連れて再婚する場合もあれば、夫が再婚して新たな家族を築く場合もあります。

夫婦は離婚すれば他人になりますが、両親の離婚で親と子の関係がなくなることはありません。

相続という面から見ても、離婚した親と子の間で法的変化が生じることはなく、何ら変わりません。

しかし、例えば、離婚した男親が再婚すると、毎日の生活を共にする再婚家庭を重視し、再婚相手、再婚した相手との子に自分の全財産を相続させたいと考える方もおられます。

前婚の子と再婚の子は、父親の血を引く立場としては何ら違いはないのですが、上記のような事は実際にあります。

両親離婚後、父親とは話したことも会ったこともない、今更父親が亡くなったからといって遺産をもらうつもりもない、と思う方もおられるでしょうが、どのような状況であっても、子供である以上親の遺産を相続する「権利」があります。

ただし、権利なので主張しないと実現できません。

相手が義務として与えなければいけない、というものではありません。

ここでは、前妻の子の相続の権利について説明します。

子の相続権はみな平等

前妻との間に子どもがいるが、前妻と離婚後何十年も会ってなく、何をしているのかも知らない。

このような状況にある男性が、再婚して新たに家庭を築き、毎日共に暮らしていてる再婚後の子供と前妻との子供を相続に関して平等に扱うか、というと難しいかもしれません。

しかし、母親が前妻であろうが再婚相手であろうが、男性の子供であれば相続に関しては全く同等です。

例えば、相続人が前妻の子1人、再婚相手、その子ども2人であれば、民法に定められた法定相続割合に従って前妻の子供は、他の子どもと同じ割合である6分の1を相続できる権利があります(再婚相手は2分の1、子供は全員各6分の1)。

ただし、これは遺言書がない場合の話しです。

遺言書で別扱いも

遺言書は、遺産の処分(相続)方法を記した文書です。

遺産の相続方法は、遺産の所持者である遺言書の意思が一番に尊重されるべきなので、遺言書の内容は先に述べた民法に規定されている法定相続割合より優先します。

遺言書に、「財産を妻に2分の1、子供A、B(再婚後の子供)に各4分の1を相続させる。」と、前妻の子供を除外して書かれてあっても、当該遺言書は有効です。

では、前妻の子供は何も相続できないか、というとそうではありません。

遺留分

遺言書は法定相続割合に優先しますが、遺言書でも無視できないものとして「遺留分」があります。

「遺留分」とは、相続人(配偶者、子供、親)である以上、法律で認められた最低限の相続割合です。
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子供の場合、法定相続割合の2分の1が「遺留分」として認められます。

上記の例で言えば、前妻の子の法定相続割合は6分の1なので、「遺留分」はその半分、12分の1になります。

遺言書に前妻の子について何も書かれていなくても、前妻の子は遺産の12分の1を請求することができます。

遺留分の問題点

遺留分に関する問題として、主に財産額の把握と親の死亡の事実の認知があげられます。

遺産総額の把握は簡単ではない

遺産は今の家族(再婚家族)が管理保有しているので、遺留分の請求のもとになる遺産総額を簡単には把握できません。

相手に遺産内容を開示するように求めることになりますが、全てが開示されるかどうかの問題があります。

自身で調べるとしても、子供とはいえ交流のない父親の財産を調べるのは困難なので、弁護士に依頼することになるでしょう。

※家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申立をすることもできます。

死亡したことの認知

親と交流のない子が、親が亡くなったことをどうやって知るか、という問題があります。

遺言書がなければ、遺産相続に必ず前妻の子の印鑑が必要になるので、相手から連絡してきます。

しかし、遺言書がある場合、遺言書に基づいて遺産相続ができるので、死亡したことを連絡してこないこともあります

遺言書に遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は全相続人に相続の発生、遺産の内容(財産目録)を知らせる義務がありますが、親族が遺言執行者だったり、遺言執行者が指定されていなかったら、前妻の子供に父親が亡くなったことを知らせないまま相続手続きを済ませるかもしれません。

「遺留分」は、死亡した事実を知り、自分の遺留分が侵害されていることを知った時から1年で時効で消滅します。

また、死亡した事実を知らなかったとしても、死亡から10年したら同様に時効で消滅します。

つまり、父親が死亡してから10年以内に死亡した事実を認知し、慰留分請求(遺留分減殺請求)をしなければいけません。

まとめ

遺留分は請求権であり義務ではないので、前妻の子に何も相続させないとする遺言書を書いても問題ありません。

前妻の子が遺留分請求をしなければ、遺言書の内容通りに相続されることになります。

しかし、前妻の子供も再婚後の子供と同じ相続権があり遺留分を請求する権利もあります。

遺留分請求がされれば、穏やかに相続手続きを行う事は難しくなります。

交流のない者同士が、いきなり故人の遺産の分配について協議することになるので、当人たちの精神的負担も大きいでしょう。

遺言書を作成するにあたっては、遺留分に配慮した内容にすれば問題も起きにくくなります。