遺産を渡したくない
親子関係、兄弟姉妹関係は、家族の数だけ異なります。
関係がこじれてしまい、関係断絶、絶縁、音信不通になっているような状況にあるご家族もあります。
司法書士として相続の仕事をしていると、このような状況にあるご家族に接することもございます。
このような状況にある家族関係で相続が発生した場合、通常、相続人である以上相続権があるので、音信不通となっていても何とか連絡をとって相続手続きをすることになります。
しかし、中には、亡くなった親と〇〇は仲が悪く絶縁状態で、生前○○には1円も遺産を渡したくない、と言っていました、というような事を聞くこともあります。
相続が既に発生している段階では、故人の意思だから○○には遺産は渡さない、ということができるか?
相続欠格に該当するような場合を除き、そのようなことはできません。
するとしても、故人の意思だとして○○に相続を放棄してもらうようにお願いする、ということになります。
では、事前に何らかの対策をしていれば、特定の相続人に遺産を渡さないことができるのか、について検討します。
相続人廃除
確実に特定の相続人に遺産を渡さない、とすれば「相続人廃除」の制度を利用する方法があります。
相続人としての立場を廃除することで、遺産を渡さなくて済みます。
当然に遺留分も請求できません。
有効な方法と見えるのですが、簡単には利用できないのが難点です。
「相続人廃除」は、家庭裁判所に申立てをし認めてもらう必要がありますが、認めてもらうにはかなりハードルが高いです。
被相続人に対して虐待・重大な侮辱をしていたり、相続人にその他の著しい非行があることが必要になります。
過去の認められた例として、犯罪を犯した男性と一緒に逃げ回っている娘を廃除、ギャンブルでつくった借金を肩代わりしたが妻子がいるにもかかわらず別の女性と子供をもうけ同棲している息子を廃除、多額の借金を肩代わりし、その際に注意したが暴力をふるって家を出て行方不明になった息子を廃除、等々があります。
このように、単に気に入らない、けんかをした等ではダメで、家族関係を破壊するような具体的な行為が必要になります。
遺留分の放棄
特定の相続人に遺産を渡さない内容の遺言書を作成したり、以外の者に生前贈与や遺贈することも考えられます。
しかし、この場合に問題になるのが「遺留分」です。
遺留分の対象となる相続財産は、相続開始時の財産の価額+贈与した財産の価額から債務を引いた額になります。
「贈与した財産」は、遺贈と死亡時から1年前までにされた生前贈与です。
生前贈与が相続人への特別受益に該当する場合、死亡時から10年前までが対象となります。
また、贈与に関して与えた側、もらった側双方が、遺留分を侵害することを知っていた場合、期間の制限はなくなります。
このように、特定の相続人に遺産を渡さないように生前から他者に財産を渡しても、さかのぼって「遺留分」を請求されれば、その分を渡さなければいけなくなります。
「遺留分」は放棄できるので、放棄すれば遺産を渡す必要はなくなりますが、放棄の申立は本人しかできないので、本人に放棄する意思がなければどうしようもありません。
まとめ
相続廃除ができそうな背景が少しでもあれば、まずは専門家に相談して家庭裁判所に申立てをすることをおすすめします。
代理人として全ての裁判手続きを依頼されたい場合は弁護士へ、ご本人で手続きをされたい場合で提出書類の作成を依頼されたい方は司法書士へご相談ください。
相続人の廃除や相続欠格に該当するような場合以外は、どうしても「遺留分」の問題があり、「特定の相続人に1円も遺産を渡さない」ということを実現するのは、難しいと言えます(兄弟姉妹には遺留分の権利はないので、遺言書で分割方法を決めておけば遺産を全く渡さないようにすることは可能)。
ただし、何も対策をしていなければ、遺留分どころか他の相続人と同じ割合の相続分を主張されることもあるので、遺留分に相当する遺産を渡すような遺言書を作成するか、全く遺産は渡さないとする遺言書を作成して、遺留分を請求された場合に備えて、その分の遺産は準備しておく、ということが考えられます。