遺産分割協議

遺言書が無い場合の相続手続きは、相続人全員で協議して決めることになります。

分割の対象となる相続財産は、現金、預貯金、不動産、動産等々いろいろな種類の財産から構成されていますが、多くの場合はその価値で分割方法を決めていくことになるでしょう。

現金や預貯金であれば価値は確定していますが、不動産の場合、取得した後に当該不動産に関して何らかのトラブルが見つかり想定した価格を大幅に下回ってしまうこともあります。

その場合、一度決まった遺産分割をやり直すことができるか、という問題が生じます。

遺産分割協議後の不動産トラブル

1人が故人名義の不動産を取得し、他の相続人は当該不動産価値に相当する額の預貯金等を取得する遺産分割協議を行い、それに従って遺産分割をするようなことは一般的に行われます。

預貯金については、その額がそのまま価値になりますが、不動産に関しては何らかトラブルが潜在していて、分割後にトラブルが顕在化し、当初想定した価値から大きく下がってしまう、そのトラブル処理に多額の費用を要する、というような事が起こり得ます。

例えば、

  • 実際の土地の面積が登記簿記載の面積より小さかった。
  • 隣人と境界線でもめいて、裁判等で決着つける必要がある。
  • 土壌が汚染されていて、きれいにするのに多額の費用が必要。等々

上記のような事が起きると、当該不動産を遺産と他の相続人が取得した遺産が価値が不均衡になってしまいます。

不動産を相続した相続人が、この不均衡を是正するために遺産分割協議のやり直しを希望した場合、一度決定して、実印まで押印している遺産分割協議の内容を変更できるかが問題になります。

遺産分割協議のやり直しの可否

相続人全員が承諾すれば、遺産分割協議のやり直しは可能です。

合意ない場合、相続人間で強迫があったり、詐欺があったり等、特別な事情が必要になります。

やり直すとしても、一旦、分配して各自がそれぞれ処分しているような場合、取得した遺産を元に戻して再度一から分割協議をすることは簡単ではありません。

そこで、民法911条の担保責任を使って、やり直すというより、不均衡を調整する方法があります。

民法911条には「各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。」と規定されています。

各相続人は他の相続人に対して、売主が買い主に対して負うのと同様の担保責任を負うとしています。

相続人が遺産分割で取得した相続財産で品質、数量に不適合があれば、各相続人は相続分に応じて担保責任を負うことになります。

この場合、民法562条、563条に照らして財産の種類、品質、数量に関する契約不適合に該当するか、で判断することになります。

土地の実面積が登記簿記載より小さかった

通常の土地売買で生じた問題と同様に対処していくことになります。

登記簿上の平米数や坪数に路線価や市場価格等を乗じて出した価格をベースに遺産分割協議していたので、足りない分は補填されるべきと主張することが考えられます。

しかし、基本的に小さいことを理由に遺産分割請求の見直し、代償請求をすることは難しいと言えます。

遺産分割協議書には土地の所在地や地目、地積(面積)を記載しますが、記載目的は土地の特定であり、算出された金額は一応の標準として土地の価格を全体として評価したもとして扱われているので、面積に違いがあっても認められにくいと言えます。

認められるには、相続人全員が登記簿上の面積と実面積が同じものと認識した上で、平米当たりの単価を相続人間で合意し、合意した単価に面積を乗じた価格を当該土地の代償金とし、遺産分割協議書にも当該計算を前提としてその面積を記載していることを明示する等が必要になるでしょう。

隣人と境界線でもめている

すぐに解決できないような場合、深刻な境界争いが生じる蓋然性が高く、このような土地と知らずに行った遺産分割協議の内容は不適合として、他の相続人に各自の相続分に応じて代償金の減額(土地の価格を下げる)や損害賠償請求が認められる可能性があります。

更に、境界問題で遺産分割の目的が達成できない場合は、遺産分割協議自体の解除が認められる場合もあります。

また、土地の境界トラブルはないことが明示的、黙示的に表示されているような場合は、錯誤を理由に遺産分割協議を取消すとする主張も可能になります。

境界線トラブルが土地の「品質」に不適合と認められるには、法務局保管の公図と現況が一致せず、図面を見ても隣接地と一部が重なっているおそれがある、公図と現況が大きく食い違っている等により、将来的に隣地者と境界線で紛争になる可能性が高いことが必要でしょう。

土壌が汚染されている

遺産分割で取得した土地の土壌汚染があれば、「品質」に関して合意内容に適合していないとして、代償金の減額、損害賠償請求、または、内容によっては取消しできる可能性があります。

判例によれば、法令に定められた基準値を超える有害物質が認められたら、品質不適合に該当するとされています。

ここで注意すべきは、指定有害物質や基準値等が更新されているようなケースで、遺産分割時には有害に指定されていなかったが、その後、指定されて基準値を超えている場合はどうなるかです。

売買に関する裁判では、「売買契約締結当時」の取引観念をしんしゃくして判断すべきとされているので、遺産分割協議をした時点では有害物質と指定されていなかった場合、品質不適合には該当しないと判断される可能性があります。

まとめ

遺産分割協議で得た遺産に数量や品質に関して問題があれば、トラブルにより当初に換算した価格を減額してその分を他の相続人に相続分に応じて負担してもらったり、損害が発生すればそれを負担してもらうよう請求することができます。

また、トラブルの内容によっては取得した目的が達成できない、取得した意味がないと認められれば、協議自体を取消すことも可能です。

しかし、一度決めた遺産分割協議をやり直す、修正することは容易ではないので、ちょっと気に入らない、想像していたのと違う、程度では認められません。

現金や預貯金と違い、不動産や動産は換算してその価値を判断することになりますが、よく調べもることなく一般的な基準で換算すると、実際の価格とは大きく違っていた、と後で判明することもあります。

そうならないように、「物」で遺産を取得する場合は、事前にしっかり調査、鑑定することが重要になります。