相続放棄きは、家庭裁判所の所定の申述書の各項目に記載し、必要な書類(戸籍謄本等)を添付して定められた期限内に提出すれば、内容に明白な却下事由がない限り受理されます。

特殊な事情がなければ比較的簡単に相続放棄ができますが、一度受理されてしまった後に相続放棄の効果を無効にすることは簡単ではないので、慎重にする必要があります。

勘違いの相続放棄

以下にご紹介するのは実際にあった事例です。

当人として他の相続人に良かれと思って相続放棄したことが、状況を余計に複雑にしてしまい、人間関係も悪化する結果になりました。

法律的効果を調べず、根拠のないかってな解釈で相続放棄という法的行為をしてしまうと、思いもよらぬ事態を生じさせてしまうおそれがあります。

母のための相続放棄が

Aさんには妻B、子C、D、Eがいました。

Aさんが亡くなり、3人の子は母であるBが父の遺産を全部受け継ぐのが良いと考え、自分たちが相続放棄をすれば母が全部相続することになると思い、全員が相続放棄をしました。

母が相続するための手続として父の生まれてから亡くなるまでの戸籍を取得したところ、父には兄Fがいることが判明しました。

相続は順番が決まっており、第一順位(子供)が全員相続放棄すると第二順位へ、第二順位もいないと第三順位と相続権が移行していきます。

子供達の相続放棄の効果

この事例では、Aさんの父母は亡くなっていたので、子供達の相続放棄により相続権が兄であるFに移行し、Aさんの相続人はBさんとFさんの2人になります。

これにより、FさんはAさんの遺産の4分の1を受取る権利を持つことになります。

相続放棄の無効

これを知った子供達は、「母に全部相続してもらうために相続放棄した。自分たちが相続放棄することでFが相続権を取得することは知らなかったので、相続放棄は勘違い(錯誤)でしたものであり、無効なので取消して欲しい」と家庭裁判所に申立てをしました。

結果は、そのような申立を家庭裁判所にすることは不適法として却下されました。

家庭裁判所では判断しない、ということなので、地方裁判所に無効を主張して訴訟することになります。

相続人になったFさんが遺産分割協議でBさんが全財産を相続することを承諾してくれれば良いですが、相続権を主張されるとBさんとFさんで争いことになりかねません。

子供達が思い込みで相続放棄せずに母が遺産を全部取得する旨の遺産分割協議をしていれば、何の問題もなく済んでいたことが、ここまで大きなトラブルになってしまいます。