相続問題

相続人による無断引き出し

相続人が複数人いる場合、1人の相続人が他の相続人に黙って被相続人(故人)の預金口座から勝手にお金を引き出す、ということがあります。

相続人が被相続人と同居していて、日頃から被相続人に代わってキャッシュカードでATMからお金を引き出していたような状況であれば、亡くなる前や亡くなった後でも単独でお金を引き出しやすい状況にあります。

亡くなる前、後に特定の相続人が多額の預金が引き出していたら、他の相続人は遺産を使い込まれたと不審に思うでしょう。

このように、特定の相続人が遺産である故人の預金を勝手に使いこんだ場合、どのように対処していくかが問題になります。

生前に預金引き出し

故人の生前中にキャッシュカードを使用して口座から預金を引き出していた場合の対応としては、以下の対応が考えられます。

故人の承諾のもとで引き出していた場合、引き出したのは特定の相続人ですが、それは故人が当該相続人に与えたことになるので「生前贈与」とみることもできます。

この場合、贈与された額を「特別受益」として遺産分割協議で調整することになります。

故人の承諾がなかった、相続人が勝手に引き出していたような場合、相続人の財産の使い込み、相続財産の使い込みとなります。

遺産分割協議の中で、引き出した預金を遺産に戻し、又はそれを考慮して遺産分割ができれば良いですが、協議がまとまらない場合は、最悪、「不当利得返還請求」や「不法行為による損害賠償請求」として裁判で争うことになります。

亡くなった後に預金引き出し

被相続人が亡くなった時点で、財産は相続財産となり遺言書や遺産分割協議で遺産の分割方法が決まるまでは、相続人全員の共有財産となります。

その共有財産である預金を特定の相続人が勝手に引き出していたら、他の相続人は納得いかないでしょう。※1

遺産分割は相続が発生した時点で存在している遺産を対象とするので、勝手に引き出されたお金は対象となりませんでしたが、これではやったもの勝ちのようになってしまい、また、別途、訴訟で争わなければいけないことになるので、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の対応として民法906条の2が改正により規定されました。

  1. 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
  2. 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

勝ってに預金が引き出された場合、条文で言う「財産が処分された場合」に該当します。

1は、相続人全員の同意があれば、引き出された額を遺産に加えて遺産分割することができる、としています。

2は、引き出した相続人以外の相続人全員が同意すれば、1と同じことができる、としています。

1で規定されたように、引き出した相続人も含めて全員の合意で遺産分割方法を決められれば良いですが、引き出したことを認めなかったり等で当人に否定されることもあります。

その場合、2に従って、引き出した相続人を除外した相続人の同意で1の内容を行うことができます。

例えば、相続人Aが故人の預金から100万円を引き出していた場合、他の相続人B、Cの合意のみで100万円を遺産に加えて遺産分割することができます。

亡くなった時点で現存する遺産が500万円で引き出された額が100万円とすると、100万円を500万円に加えて遺産総額は600万円とし、A、B、Cは各3分の1である200万円を相続分として取得します。

そして、Aは既に100万円を引き出して取得しているので、現存する500万円からAは100万円、B、Cは各200万円を取得することになります。

※1.金融機関が口座名義人が亡くなったことを知ると、その口座を凍結し、以後、預金も引き出しもできなくなりますが、金融機関が死亡の事実を知るまでは自由に出し入れできてしまいます。

まとめ

特定の相続人による遺産の使い込みは、相続トラブルの原因となります。

民法改正で使い込んだ相続人の承諾なしに調整できるようになりました。

ただし、残存する財産が十分な額であれば使い込まれた遺産を考慮して、結果的に公平になるように調整することができますが、十分でなければ足りない分を訴訟で取り返す、というようなことなってしまいます。

預貯金等で使い込みのおそれがある場合、早急に金融機関に口座名義人の死亡を通知し口座を凍結させて勝手に引き出しできなくすることが使い込み防止に効果的です。※2

※2.口座凍結後でも、各相続人は単独で預貯金の3分の1に自己の法定相続割合を乗じた額を引き出すことが認められています(上限150万円)。