抵当権の抹消は、基本的に抵当権者と設定者(不動産所有者)が共同で抹消登記申請を行います。

しかし、明治、大正時代に設定された古い抵当権の場合、登記簿上に記載されている住所に抵当権者が居住していないことが多く、どこに住んでいるのか、生死さえ分からないこともあります。

このように、抵当権者が行方不明で共同申請できないときの抹消方法として、供託による抹消があります。

古い抵当権を抹消するには他にもいくつか方法がありますが、この供託による抹消が一番使いやすく多くのケースで用いられている方法になります。

供託による抹消

不動産登記法70条に、登記権利者は、①登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、被担保債権の②弁済期から20年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該③被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときは、当該登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる、と規定されています。

この条文で、供託抹消できる3要件が示されています。

  1. 登記義務者の所在が知れない。
    登記義務者とは抵当権者のことです。抵当権者が亡くなっている場合は、その相続人全員が登記義務者となります。
  2. 弁済期から20年を経過している。
    返済期限から20年が経過していなければいけません。
  3. 被担保債権、利息、損害金の全額を供託する。
    被担保債権とは、登記簿に記載されている債権額のことです。
    借りてから返済期限までに生じるのが利息、返済期限後から返済されるまでに生じるの損害金(遅延損害金)になります。

1、2の要件を満たしていることを確認して、3の金額を供託所に供託し、供託したことを証する書面等の必要書類を法務局に提出することで、不動産所有者は単独で抵当権を抹消することができます。

登記義務者の所在が知れない

所在が知れないとは、居所が分からなく、その生死さえ分からない状態のことを言います。

抹消申請する際、所在が知れなかったことを証する書面を申請書と一緒に提出します。

証明書類として、役所による不在住証明や警察官、民生委員の調査書等がありますが、一番使われる方法は郵便の不到達証明です。

登記簿上の抵当権者の住所宛に催告書(利息、損害金含めて全額返済するので受領して欲しい旨の文書)を配達証明付郵便で送り、「宛て所に尋ね当たらず」や「宛名不完全」という理由で返送されたものが証明書類になります。

※登記簿上の住所には住んでいなくその後の所在も知れないが、亡くなっている、、という場合、供託抹消は使えません。
抵当権は相続人に承継されているので、相続人調査をし基本的にその相続人と共同で抹消申請することになります。
但し、その相続人が所在不明、生死不明であれば、供託抹消をすることができます。

弁済期から20年経過

弁済期(返済期日)から20年を経過していることが必要です。

明治、大正時代であれば、この20年が問題になることはないでしょう。

昭和39年4月1日より前に登記された抵当権は、弁済期が登記簿に記載されているので分かります。

登記簿に弁済期の記載がない場合は、以下のように決めていきます。

登記簿記載の債権成立の日を弁済期とする。

債権成立の日の記載がなければ、担保権成立の日を弁済期とする。

被担保債権、利息、損害金の全額を供託

被担保債権は、登記簿に記載されている債権額になります。

明治、大正時代の抵当権であれば、債権額の50円、100円、のような金額になっていることが多いです。

この額は現在の貨幣価値に換算する必要はなく、記載されたままの額を供託します。

利息、損害金も同様に、登記簿記載の債権額を基に計算します。

損害金は、弁済期から供託する日までの期間に生じた額になるので、弁済期が明治時代の抵当権だと100年を超える期間に生じた損害金になり、巨額になるのではと思われる方もおられます。

しかし、債権額自体が100円程度なので大きな額にはなりません。

例えば、明治時代に弁済期がある抵当権で債権額が120円、損害金 年6%で、弁済期から供託する日まで110年経過している場合でも、その損害金は790円程度です。

利率は登記簿に記載されていたらそれで計算します(※1)。

また、「無利息」とのみ表示されいたら、利息は無利息、遅延損害金は6%とします。

「利息」「遅延損害金」両方の記載がなければ、ともに年6%で計算します。

※1.利息、損害金の計算で注意するポイントとして、これらの利率は法律で上限が法律で決められていますが、時代ごとに変更されていることです。
そして、登記簿上の利息や損害金が時代ごとの上限を超えている場合、上限利率に引き直して計算しなければいけません。
例えば、一例として、明治10年9月11日から大正8年4月30日までは、利息の上限は12~20%(額による)ですが、翌月から昭和29年6月14日までの間は10~15%(額による)に改正されています。

まとめ

抵当権者が行方不明で他の要件を満たすことができる場合、供託による抹消手続きが一番やり易い方法と言えます。

全て単独で手続きを完遂できるので、とても便利です。

抵当権者が亡くなり相続人に承継されている場合、相続人が1人でその方が行方不明、又は相続人は複数人だが全員が行方不明であれば、供託抹消が使えます。

また、抵当権者が複数人で内1人が行方不明というような場合も、行方不明者に対しては供託(当該者の持分相当額を供託)、他の者とは共同で抹消申請するという形も可能なので、抵当権者が行方不明である場合は、まず、供託抹消をベースに抹消手続きを検討していくことになります。

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