相続について相続手続をしたくても、共同相続人の1人に連絡がとれない。
10年以上疎遠で、どこに住んでいるのか、生きているのかさえ分からない。

このような状況でも、不明相続人を無視して相続手続きをすることはできません。

行方不明であっても相続人にある以上、その方にも相続権があります。

このような場合、通常と異なった手続きが必要になります。

所在不明

電話番号も住所も知らない、知っていた居所には住んでなくて移転先が分からないような場合、それだけで不明者として扱うことはできません。

戸籍謄本や住民票等で行方を探すことになります。

方法としては、戸籍の附票(住所移転の変遷が記録されている)や住民票を取得して調査することになります。

当人が移転先の役所に住民票を移していれば、この調査で現住所が分かりますが、移していなければ調査が難しくなります。

書類で分からなければ、最後の住所地等に行って近所や管理人、地元の不動産等に聞き込みをするか、専門の方に人探しを依頼するか等になりますが、時間も費用もかかり、また見つかる保証もありません。

行方不明

このように、ある程度の調査をしても居所やその生死さえも分からない場合、以下の2っの方法で対処することになります。

  • 失踪宣告する。
  • 不在者財産管理人の選任申立をする。

失踪宣告

失踪宣告は、行方不明者を法律的に死亡したものとして扱う手続です。

生きているかもしれませんが、生死が分からないので便宜上死亡したものとします。

失踪宣告には「普通失踪」「特別失踪」の2種類があり、「普通失踪」は、7年間生死不明な場合に、「特別失踪」は危難(事故等)が去っから1年間生死が不明な場合に、家庭裁判所に申立を行い、裁判所に認められることで成立します。

申立の際、「失踪を証する資料」の提出が求められます。

この資料とは、いろいろ手を尽くして行方を捜したが見つけることができなかったことを証する書類になります。

警察に提出した行方不明者届(捜索願)や失踪者宛に手紙を出したが不明として戻ってきた、行方不明になった経緯等の説明書、このような資料を提出します。

申立が認められれば、普通失踪者は失踪から7年間の期間が経過した時に、特別失踪者は危難が去った時(事故が発生した日)に死亡したものとみなされます(認定死亡)。

これにより失踪者の(法律上の)死亡日が確定し、確定日に失踪者は死亡したものとして相続手続をすすめます(失踪者の相続権はその相続人に承継されます)。

確定した失踪者の死亡日が被相続人の死亡日より早ければ、失踪者に子供がいれば代襲相続が発生します。

後であれば、失踪者の相続人としてその配偶者や子供が(いなければ親や兄弟姉妹が)、相続人として手続きに参加します。

失踪宣告の懸念すべき事として、生死が確定していない状況で当人は死亡したものとして扱うので、後日、「突然当人が現れる」という事もあり得ます。
生存が確認され失踪宣告が取り消されると、相続財産や生命保険の返還義務(残っている部分に限定)が発生し、非常に面倒な事になるおそれがあります。

不在者財産管理人

失踪宣告の要件を満たしていない場合、不明の相続人に代わって相続手続をする者として家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらう方法があります。
※失踪宣告の要件を満たしていても、失踪宣告を選択することはできます。

相続手続には、失踪者に代わって選任された不在者財産管理人が裁判所の許可を得て遺産分割協議に参加します。

選択

相続人に不明者がいて所在が知れない場合、通常、先に述べた「失踪宣告」か「不在者財産管理人」制度を利用します。

失踪宣告の要件を満たしていなければ、不在者財産管理人を選任してもらうことになりますが、満たしている場合、どちらも利用することができるので、どちらを利用すべきか迷うところです。

費用を抑える

手続きに費用をできる限り抑えたいのであれば、失踪宣告がよいでしょう。

裁判所に払う申立費用は、7,000円前後で収まります。(別途、不在者の戸籍謄本や戸籍の附票等の取得費用や失踪を証する資料の作成費用が必要になります。)

ただし、居所の調査に探偵のような専門家に頼んだり、最後の居住地が遠方であったりすると、費用が高額になってしまうこともあります。

対して、不在者財産管理人は申立自体は数千円程度ですが、管理費や管理人に対する報酬を予納金として裁判所に納めなければならなく、この予納金がかなり高額になります。

管理対象となる財産によりますが、数十万円から100万円を超える場合もあります。

遺産分割協議

失踪宣告をした場合、失踪者の相続人が遺産分割協議に参加することになります。

通常の遺産分割協議と変わりなく、当事者間で分割方法を決めていくことになります。

対して、不在者財産管理人の場合、不在者財産管理人(弁護士等※1)は不在者の利益のために遺産分割協議に参加し、合意する内容も裁判所の許可が必要なので、他の相続人の意のままに分割方法を決めることはできません。

管理人は不明者の替わりに不明者の利益になるように協議することになります。(基本的には法定相続割合に従う。)

※1.申立時に親族を不在者在者財産管理人の候補者として挙げることができ、裁判所の判断で当該候補者が不在者財産管理人に選任される場合もあります。

手続き期間

通常の行方不明で適用される普通失踪は、行方不明になってから7年を経過していなければ使えませんし、申立をしても手続自体に約1年程度かかります。

対して、不在者財産管理人の選任手続期間は、1~3ヶ月程度と比較的短期間で選任され、相続手続を進めることができます。

まとめ

20年、30年音信不通といっても、その者が相続人に該当すれば無視して相続手続きをすることはできません。

手続きは家庭裁判所も絡み簡単ではないので、専門家である弁護士や司法書士に相談されることをおススメします。