財産を持っている方が亡くなれば相続が発生しますが、その前に行われるのが葬儀です。
お通夜、葬式、告別式等々の行事をすることになります。
通常、相続に関する話し合いは、亡くなってしばらく経った49日等が終わった頃にされることが多いですが、その前に葬儀や費用について相続人間で決めなければいけません。
葬儀費用
葬儀の費用負担については、いろいろな考え方があります。
「葬儀は故人のためにするのだから、葬儀費用は遺産から支出する」や「祭祀を受け継ぐ喪主が負担すべき」等々。
葬儀費用の負担に関する法律や規定はありません。
過去、いろいろ裁判で争われていますが、ケース毎に審理され「〇〇が負担する」という統一的な判断がなされていないので悩ましいところです。
葬儀費用は誰が負担するか
負担方法としては、以下が考えられます。
- 喪主が負担する。
- 全相続人で負担する。
- 遺産で負担する。
- その地域の慣習に従う。
喪主が負担
喪主が葬儀を取り仕切るので、それにかかる費用は喪主が負担すべきというものです。
他の相続人としては、喪主であり祭祀も受け継ぐのだから、葬儀費用を負担するのは当たり前だろう、とする思いがあるかもしれません。
対して、喪主は葬儀費用や今後の祭祀に関する費用を自分に押し付けて、遺産だけ相続する他の相続人に対しては不満に思うかもしれません。
それぞれの立場で考え方も異なりますが、一般的には葬儀の費用負担は「喪主」であるとする考え方が主流になっているように思われます。
故人と子は20年以上の没交渉で故人の兄弟が喪主として葬儀を行い、その費用を子に請求するというケースで、高等裁判所は「一般論として亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担すると解するのが相当である」と示しました(平成24年)。
このように判断される場合、費用は喪主負担になるので、他の相続人に一部の負担を求めたり、遺産から費用を支出することはできないことになります。
全相続人で負担
各相続人の相続割合に応じて葬儀費用を負担する、という考え方もあります。
故人に関する費用なので、故人の遺産の取得割合に従って負担することは、公平であるようにも見えます。
ただし、全員で納得した上で葬儀を行えば、このようなやり方も問題ないかも知れませんが、通常、葬儀は喪主と葬儀社が相談しながら決めていくので、都度、全員の承諾を得ながら決めることは面倒でもあり難しくもあります。
また、質素にやって欲しいかったのに、喪主が自分の体裁から高額な葬儀をしたような場合、費用負担についてもめるおそれもあります。
相続人で費用を負担すべきかについては、遺言書で1人の相続人が遺産全部を相続し、他の相続人が遺留分を請求した裁判で争われたケースがあります。
裁判所の判断は、他の相続人が取得する遺留分を計算する上で、計算の基礎となる遺産額から葬儀費用を差し引くとしました。
つまり、遺留分を請求した他の相続人も葬儀費用を一部負担するとしています。
遺産で負担
家族に金銭的な負担をかけたくないと、葬儀費用を貯めておくという方もおられます。
葬儀費用は被相続人の相続債務として相続税の計算で控除することが認められていますので、その観点から葬儀費用を遺産から支払うという考え方もあります。
昭和の時代の裁判ですが、葬式費用は相続財産で負担と判断したものもあります。
その地域の慣習に従う
地方では、地域住民の繋がりが強くその地域に根付く古くからの慣習によって葬儀が行われることもあります。
誰が葬式をおこない、またその費用は誰が負担すべきかは、専らその地方または被相続人の属する親族団体内における慣習もしくは条理に従うべきとした判例もあります。
まとめ
葬儀費用の負担については、明確な法令、規定がありません。
最近の判例を参考にすると、基本的には喪主や祭祀承継者が負担するものとされる傾向にあり、葬儀を主宰した喪主が葬儀費用を負担し、葬儀でいただいた香典を費用に充当する、とういう形になるかと思われます。
しかし、喪主にもいろいろな事情があるでしょうし、香典より葬儀費用がはるかに大きくなるような場合は負担も大きくなります。
喪主にとって葬儀費用の負担が重ければ、他の相続人に相談することが大切です。
葬儀を1人で取り仕切って、後で一方的に葬儀費用の負担を他の相続人に求めるようなことをすると反発も大きくなるでしょう。
遺産がある程度あれば、遺産から葬儀費用を支出する方が他の相続人の家計から葬儀費用の負担をお願いするより了解を得やすいとも言えます。
その場合でも、葬儀の内容、費用の詳細を事前に説明して了解を得ておくことが大切です。