家のローンや何らかの資金でお金を借りると、家や土地を担保として抵当権が設定されます。

借りたお金が完済されると、抵当権は効力を失うので抹消することになります。

抹消手続きは、抵当権者(金融機関等)と担保不動産の所有者による共同申請になりますが、実質的には、金融機関が必要書類を所有者に渡し、所有者が申請手続きを行うことになります。

通常、所有者が金融機関から送られてきた書類を司法書士に渡し、司法書士が申請書を作成、法務局に提出し登記簿に記録されている抵当権を抹消します。

しかし、金融機関からの書類を紛失したり、手続きを長期間放置してしまうと、余分な手続きが必要になることがあるので注意が必要です。

抵当権の抹消手続き

家のローン等を完済すると、金融機関から抵当権を抹消するための書類として以下の書類が送付されてきます。

  • 解除証書(又は弁済証書)
  • 登記識別情報(又は登記済証)
  • 委任状

解除証書(又は弁済証書)は、登記原因証明情報として申請書に添付して法務局に提出します。

登記識別情報は、抵当権設定時に抵当権者に対してのみ法務局から交付された書面です。

抹消申請によって抵当権者は抵当権を失うことになるので、申請手続きをしている抵当権者が真の抵当権者であるかの確認のために、真の抵当権しか所持していない登記識別情報(又は登記済証)を申請時に提出するようになっていますので、金融機関から送付されてきたものを申請時に提出します。

委任状は「抹消手続きを○○に委任します。」と記載された書面で、○○の部分は空欄になっています。

金融機関は所有者側で抹消手続きをするのを前提に委任状を送付し、所有者側が指定する者(又は所有者自身)を○○部分に記載し、その者と所有者が共同で抹消申請することになります。

所有者が司法書士に手続きを依頼した場合、司法書士が空欄部分に自身の名前を記入し、所有者がご自身で申請する場合は、ご自身の名前を記入することになります。

これらを揃えて法務局に抵当権抹消申請をします。

抹消トラブル

金融機関から必要書類が送られてきてすぐに手続きをすれば問題ありませんが、書類を紛失してしまったり、長期間手続を放置してしまうと、通常の手続きでは申請ができなくなるおそれがあります。

書類紛失

金融機関から送られてきた書類をそのままにし、しばらく手続きを放置後に申請をしようとしたら書類が見当たらない、、

このように、書類を紛失することもあります。

この場合、金融機関に再度、必要書類を送付してもらうようにお願いすることになります。

解除証書、委任状は送付されますが、登記識別情報(登記済証)は送付されません。

登記識別情報は再発行されないので、紛失すると替えがありません。

申請時に登記識別情報を提出することはできないので、通常の申請手続きではなく、「事前通知制度」を使った申請になります。

真の抵当権者であれば所持している登記識別情報がないので、真の抵当権者である確認を別の方法で行うことになり、それが「事前通知制度」になります。

この制度を利用するには、2つの書面が必要になります。

一つは委任状です。

通常の抹消申請であれば、委任状に実印の押印は必要ありませんが、「事前通知制度」を利用しての申請の委任状には実印が必要になります。

この点は、金融機関も承知しているので、実印が押印された委任状が送られてきます。

もう一つは、印鑑証明書です。

委任状の押印された印が実印であることの証明として、印鑑証明書も添付して提出しなければいけません。

発行後3ヶ月以内の印鑑証明書が必要なので、3ヶ月を経過していれば再度発行をお願いしなくてはいけません。

このように、法務局は登記識別情報がない場合、実印が押印されている委任状と印鑑証明書で申請者が真の抵当権者であることを確認します。

※令和2年より、申請書に法人の会社法人等番号を記載すれば印鑑証明書の提出が不要となりました。
但し、司法書士が申請する場合、委任状に押印された印が実印かどうか分からないので、確認のために印鑑証明書が必要になります。

放置トラブル

長期間放置していた場合、その間に抵当権者側に変化が生じてしまうケースがあります。

抵当権者である金融機関が消滅するような合併が行われると、抹消する前に抵当権移転登記が必要になります(詳細はこちら)。

また、代表者(委任状に記載されている委任者)が替わっている場合もあります。

手元にある委任状には、抵当権者の代表者としてAの名前になっているが、申請手続きをする時点ではBが代表者になっている場合どうするか?

改めてBの委任状をもらわなければいけないか?、という問題が生じます。

結論から言うと、Bの委任状をもらう必要はなく、Aの委任状で申請は可能です。

登記申請の委任は、委任者が亡くなった場合でも登記申請をすることができるとされています。

代表権がある時に申請手続きを委任した場合、代表権を失った後もその委任(代理権)は消滅しません。

よって、Aの委任状をもとに委任を受けた代理人が抹消申請をすることができます。

ただし、注意すべき点として、申請書に記載する申請者名は、現在の代表者であるBの名前を記すことになります。

Aから委任された申請に関する代理権は消滅しませんが、Aは既に代表者ではないので、申請自体は現在の代表者であるBの名ですることになります。

また、委任者であるAが代表者であったことを証するために、

登記義務者の代表者Aの代理権限は消滅している。
代理権限を有していた時期は〇年〇月〇日から〇年〇月〇日である。

というように、Aには過去代表権があったことを示す内容を追記することになります。