遺留分

残された家族が遺産相続でもめるリスクを最小限にするには、遺言書を作成することが有効です。

有効な遺言書があれば、内容に不満がある家族がいても、遺言書の内容通りに従うしかないので、気持ちの面では納得できない方がおられるかもしれませんが、少なくとも調停や訴訟のような裁判所が係わる紛争までに発展することを防ぐことができます。

相続に関する紛争は珍しいことではありません。

億単位の遺産がある一部の裕福な家族だけの問題ではなく、遺産額にかかわりなく問題は生じます。

最近は、対策として遺言書を作成する方も増えてきました。

当事務所でも遺言書作成依頼をお受けしておりますが、一度作成した遺言書は撤回・変更することは可能か、可能であればどのような手続きが必要かは、気になるところだと思います。

遺言書を作成してから遺言書の効力が発生するまで(=遺言者が亡くなるまで)には、かなりの期間が経過することも多く、その間に遺言者を取り巻く状況が大きく変わり、遺言者の心境も遺言書作成当時と変わってしまうこともあります。

分かりやすい例としては、「甲土地をAに相続させる」と遺言書を作成していたが、その後、Aと大喧嘩をして音信不通となり遺言書を撤回したい、A以外の者に相続させるように変更したい、という場合です。

結論から言うと、遺言書は、その形式に関わらずいつでも撤回・変更することが可能です。

公正証書遺言であっても同様です。

ただし、撤回・変更するにしても注意すべき点があります。

遺言書の撤回・変更

遺言書を撤回・変更したい場合、新たな遺言書を作成することになります。

既存の遺言書より後の日付の新たな遺言書で撤回・変更します。

撤回・変更するのに理由は必要なく、自由にいつでも可能です。

遺言書の撤回・変更

撤回・変更するための新たな遺言書には「〇年〇月〇日付けで作成した自筆遺言証書による遺言者の遺言を全部撤回する。」と明瞭に前の遺言書を撤回する旨を記載します。

公正証書遺言であれば、「〇年〇月〇日○○公証役場所属公証人〇〇作成同年第〇号遺言公正証書による遺言者の遺言を全部撤回する。」と記載します。

書き方に決まりはないですが、撤回・変更する遺言書を特定することが重要です。

複数回遺言書を作成している場合は、個別に全部列記するとモレがあるといけないので、「本遺言書以前に作成された全ての遺言を撤回する」や「前の遺言を全部以下のとおりに変更する」と記載して撤回・変更することも可能です。

一部撤回・変更

前に作成した遺言書を特定して、「第〇条の〇〇〇を撤回し、△△△と改める。」と記載して遺言書の一部を撤回・変更することも可能です。

ただし、撤回・変更された部分以外は前の遺言書の内容に従うので、相続手続きには新たな遺言書と前の遺言書の2通が必要になります。

また、改めた部分の記載内容が不明瞭であったりすると、新旧どちらの内容を有効とするかで紛争になることもあるので、一部撤回にしなければいけない事情がなければ、全部を撤回して新たな遺言書だけで相続手続きができるようにする方が良いでしょう。

抵触による撤回・変更

撤回・変更する部分を明記された遺言書であれば分かりやすいですが、中にはその旨が記載されていない新たな遺言書が見つかることもあります。

遺言書は常に新らしい日付のものが優先されますが、古い日付の遺言書が全部無効になるものではありません。

新しい遺言書の内容に抵触していない部分は、古い日付の遺言書も有効となります。

「甲土地をAに相続させる」、「乙土地はBに相続させる」、「預貯金はCに相続させる」と記載された遺言書があり、その後、「甲土地はBに相続させる」とだけ記載された新たな日付の遺言書が見つかった場合、甲土地については古い遺言書と抵触する(相反する)ので新たな遺言書が有効になりますが、乙土地や預貯金については抵触しないので(何も書かれていない)、依然として前の遺言書が有効となります。

撤回・変更の取消し

撤回・変更した遺言書を更に撤回・変更により取り消すことも可能です。

同じように撤回・変更したい内容を新しい遺言書に記載して前の遺言書を打ち消します。

但し、撤回前の遺言書を有効にするために撤回する場合は注意が必要です。

一度撤回された遺言書は復活しないのが原則です。

A遺言書→B遺言書でA遺言書を撤回して新たな分割方法を指定→C遺言書でB遺言書を撤回するとだけ記載した場合、A遺言書は復活せず、遺言書は何もない状態になります。※1

B遺言書を撤回してA遺言書を復活させたい場合、C遺言書にB遺言書を撤回しA遺言書を復活させる旨を明瞭に記載する必要があります。

※1.撤回が錯誤、詐欺、強迫によってなされた場合は復活します。

破棄による撤回

既存の遺言書を単になかったことにしたいのであれば、破り捨てる(自筆証書遺言)ことが一番簡単です。

破棄する意思を持って(故意に)破り捨てて全部処分することが大切です。

一部の文章を線を引いて消す、×印を書いて破棄したものとするような行為は、紛争の原因(実際に裁判で有効性が争われています)になるので止めましょう。

この破棄することによる撤回は遺言書が自筆証書遺言の場合であり、手元にある遺言書が公正証書遺言であれば破棄しても撤回されたことにはなりません。

手元にある公正証書遺言は正本又は謄本であり、「原本」は公証役場に保管されているので、原本が存在する以上当該遺言書は有効になります。

この場合は、新たな遺言書で撤回・変更することになります。

破り捨てることができるのは、遺言者だけです。相続人が遺言書を破棄すると「欠格事由」に該当し、相続する権利を失うことになり、また、私用文書毀棄罪という刑法に抵触するおそれもあるので、そのような行為はしないで下さい!