家庭裁判所

人が亡くなり、その方の財産を相続人が受け継ぐ。

父が亡くなり、父名義の財産を母と子供で相続する。

相続において普通に行われていることですが、安易に行うと人生を変える大きなトラブルに見舞われることも。

以下にご紹介するのは、父の財産を相続した結果、巨額な負債を引き継ぐはめになってしまった、という実際にあった事例です。

経緯

  1. 父Aが亡くなり、相続人は子(養子)Bの1人だけだった。
    BはAが亡くなった日にその事実を知った。
    Aには、財産として不動産(価値は約500万円)と預金が15万円あり、その存在もBは知っていた。
  2. BはAの預金を引出し葬儀費用(18万円)の一部に充てた。
  3. それから約3年後、Aの甥Cが亡くなりCの相続人が全員相続放棄をしたことで新たな事実が発覚する。
  4. Cには住宅金融公庫からの5500万円のローンがあり、Aが連帯保証人になっていた。
    債務者であるCが亡くなりCの相続人が全員相続放棄したことにより5500万円の債務を相続する人がいなくなったので、公庫は連帯保証人であるA、その相続人であるBに保証債務を履行するよう催告した。
  5. その事実を知ったBは、Aが亡くなってから3年経過しているが、家庭裁判所にAの相続放棄の申立を行った。
  6. 申立は却下され、高等裁判所に即時抗告(控訴のようなもの)して争った。

裁判所の判断

裁判で争われたのは「熟慮期間の起算点」です。

相続放棄は、自分に相続の開始があったことを知ってから3ヶ月以内にしなければいけないとされています。

「知ってから」が「起算点」になりますが、問題になるのが何をもって「知った」とするかです。

故人が死んだことを知った時か、それによって自分が相続人になったことを知った時か、相続するような財産があることを知った時か。

過去にいろいろ論争がありましたが、昭和59年に最高裁が熟慮期間の起算点は「自分が相続人になったことを知った時」と示しました

ただし、例外にも言及しています。

相続するような財産は全くないと信じたので敢て相続放棄をしなかった」「そう信じるについて相当の理由があった」このような場合は、遺産の全部又は一部の存在を認識した時、又は認識可能な時を起算点とする、と言っています。

この事例で高等裁判所は、「遺産の全部又は一部の存在を認識した時」を厳格に採用し、BはAが亡くなった時にAの不動産及び預金の存在を知っていたので、起算点はAの亡くなった時であり、既に3ヶ月が経過しているので相続放棄は認められないと判決し、Bは5500万円もの保証債務を負うことになりました。

B側は「515万の財産に対して5500万もの保証債務があるのが分かっていれば誰でも相続放棄をする」「5500万の存在は相続放棄するかどうかの重要な前提事実なので、起算点はその存在を知った時にすべき」と主張しましたが認められませんでした。

まずはCの財産で返済することになるでしょうが、Cの家族が全員相続放棄していることからしてCの財産では到底返済しきれないでしょうから、残りはBが自分の財産から返済することになります。

諦めない

上記の事例では、残念ながら相続人には厳しい結果となりました。

では、故人の財産の一部でも知っていたら、3ヶ月後に故人に大きな借金があることが分かっても相続放棄できないのか、、というとそうではありません。

認められらる事例も多くあります。

少し法律的な話になりますが、最高裁が判断した「遺産の全部又は一部の存在を認識した時」を文言とおり厳格に解釈する説を「限定説」と言い、一部は知っていたが知れば当然相続放棄するような債務の存在はないと信じた場合も含むとする「非限定説」があり、裁判所がどちらを採用するかは明確にしていませんが、上記の高裁の判断は「限定説」と言えるでしょう。

しかし、家庭裁判所での判断は「非限定説」に近いと言われています。

家庭裁判所で相続放棄を受理しても、それによって損害を被るおそれのある者は地方裁判所に相続放棄無効の訴えを提起し争うことができますが、家庭裁判所で相続放棄が却下され確定してしまうと、申立人は他で争うことができません。

よって、家庭裁判所は明らかに実質的要件を欠くような場合の除き相続放棄を受理する、と言われており、実際に却下率は1%を切っています

このように、例え、故人の死亡時に遺産の存在を知っていても大きな負債の存在を知った時点から3ヶ月以内であれば、家庭裁判所で相続放棄は認められる可能性はあるのであきらめずに申立をしましょう。

ただし、家庭裁判所で相続放棄が認められても、債権者から相続放棄無効の訴えを起こされる可能性があることはご承知おき下さい。