株式相続

株式の属人的定め

株式会社の最高意思決定機関は株主総会です。

取締役を選任するのは、実質的には人事権を持つ代表取締役になりますが、最終的に株主総会で選任決議が必要です。

敵対的買収という言葉を聞かれ方も多いと思いますが、買収しようとする会社の株式(=議決権)の過半数を取得すれば、自分たちの意に沿う取締役を選任することができ、経営権を取得することができます。

重要な決議が行われる株主総会において、株主が有する議決権は1株1議決権です。

しかし、例外的に1株2議決権、3議決権と、1株当たりの議決権数を変えることが出来ます。
「株を所持する人(属人的)」によって1株当たりの議決権数を会社法の規定により変えることができます。

会社法では、株主平等の原則の例外として、株主ごとに異なる扱いができる事を規定しています。

ただし、どんな権利に対してもできるのではなく、異なる扱いができる株主の権利は以下の3っの権利なります。

  • 剰余金の配当を受ける権利
  • 残余財産の分配を受ける権利
  • 株主総会における議決権

ここでは、上記のうち会社経営(支配権)に大きくかかわる議決権について説明します。

属人的定めの変更

特定の株主に対して異なる取扱いをする場合、まず、定款にその旨が規定されていることが必要です。

ただし、このような属人的定めを定款を設けられるのは、非公開会社に限定されています。
非公開会社とは、全部の株式に譲渡制限(第三者に株式を譲渡するときは会社の承認が必要)が付いている会社のことを言います。

中小企業、特に家族経営、オーナー企業は、知らない第三者が株主となって株主総会で議決権を行使されることを敬遠するので、知らない株主廃除のために非公開会社となっていることが多いです。

異なる取扱いとは

議決権に関する異なる取扱いにおいて、基本である1株1議決権を”0”にすることも、1株3議決権のように”複数”にすることも可能です。

手続き

原始定款(設立時の定款)に異なる取扱いについて規定されていない場合、定款を変更して新たに設けることになります。

この場合、株主総会で定款変更の決議をしますが、株主平等の原則の例外であり他の株主に影響が大きいので、決議要件が厳しい「特殊決議」(総株主の半数以上、かつ当該株主の議決権の4分の3以上の賛成)になります。

既にある異なる取扱いの内容を変更する場合も同様です。
異なる取扱いを廃止する場合は、特別決議になります。

属人的取扱いの内容は登記事項ではなので、登記をする必要はありません。

以上のように、手続きを経て属人的取扱いを規定できますが、内容は何でもよいということではありません。
公序良俗に反する内容で他の株主の権利を侵害すると考えられる場合、無効となるおそれがあります。

侵害の明確な基準はなく、その判断は難しいと言えます。
そこで、属人的規定を設ける場合、規定を受ける特定株主以外の株主にも広く賛成を得ておくことで、無効リスクを軽減できるでしょう。

使われ方

特殊な規定と言えるので、漫然とではなく何らかの目的をもって規定することになります。

ケース1.過半数以上の株を保有しているオーナー経営者のもしもに備えて

圧倒的持ち株比率が高い株主がいる場合、その株主が病気や認知症等で議決権を行使できないような状態になってしまうと、株主総会決議ができず、迅速な意思決定ができなくなるおそれがあります。

このような事態になることの予防として、当該株主が「議決権を行使できない状態」になった場合は、当該株主の議決権を0とする定款規定を設けることが出来ます。

ただし、規定の内容が不明瞭であると、恣意的に定款規定を使って議決権をはく奪されるおそれもあるので、医師の判断や客観的な基準を明記しておくことが重要です。

ケース2.経営者が自己の議決権比率を保持したまま後継者に株を譲渡

オーナー経営者が子供を後継者として経営を任せる場合、保有している株を子供に譲渡して経営から離れ、顧問的立場から経営にかかわっていく場合があります。

しかし、経営方針の違いにより意見が異なると、最悪、親が経営から締め出される、ということも起こり得るので、経営を任せる側も何らかの歯止めがあればと思われるでしょう。

このような場合に、属人的取扱い規定を活用することが出来ます。

会社の株式総数が1000株、経営者Aが保有している株が800株。
このとき、例えば、799株を後継者に譲渡し、Aが保有する1株の議決権数を800個にすれば、株式譲渡後でもAの議決権割合は変わらないことになり、会社への影響力を維持できます。

注意点

総会議決権のみに関する変更なので、何かをするにも総会を通すことになります。
権利を行使するには、都度、総会を開催して決議をしなければいけません。

取締役の決定や取締役会決議のような株主総会に関係ないことに影響を及ぼすことはできません。

また、属人的取決めであるがゆえに生じる問題として、相続があります。
特定の相続人を後継者としても、相続人が複数人いると株が分散し後継者が安定的に経営することが難しくなる場合があります。

そこで、株は均等に相続できるようにして、後継者が保有する株式に議決権を複数個設定する、というような属人的な定めをすることで、後継者の支配権を強化します。

ただし、仮に、後継者が亡くなると、属人的定めは消滅し後継者の相続人(妻や子)が取得し、経営も不安定になるおそれがあります。

「属人」は1人に限定されていないので、「後継者である者及びその長男」のように細かく規定しておくことも可能です。

まとめ

会社の安定的経営を目的に属人的に特別な扱いを設けることが可能ではありますが、非公開会社限定であり新た定款規定を設定するには特殊決議が必要と、手続きは簡単ではありません。

似たものとして、拒否権付種類株式があります。
会社が何らかの事項を株主総会で可決しても、拒否権付種類株主総会で否決することができます。

拒否権付種類株式の保有者が1人であれば、実質的にその1人の意思で総会決議を否定することができ、大きな影響力を維持することができます。

また、公開会社であれば、役員選任について諾否する権利がある役員選任権付種類株式を発行できます。
これらの種類株式は、総会特別決議で決定することができ、属人的定めよりはハードルは低くなっています。

ただし、属人的規定ではないので、当初、保有を予定していた者から第三者に渡った場合、その第三者が強力な権限を持つことになります。

これらの種類株式を発行する際は、そうならないように、又そうなった場合の対処法を事前に講じておく必要があります。
いろいろな状況を考慮し、希望する目的達成にはどの方法が最善かをしっかり見極めることが重要です。

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