黄金株

自己株式の取得

自己株式の取得とは、会社が会社以外の第三者が保有している自社の株式を何らかの方法を使って取得することです。
一旦、発行した株式を会社が取得(取り戻す)する理由は、さまざまです。

流通している株式数を減らして株の価値を上げる、買収予防として自社の持ち株比率を上げる、合併・株式交換等の事業再編を行う、株主の数を減らして管理コストを下げる等々。

取得には株主との合意による取得と、合意不要で会社が強制的に取得(取得条項付株式の取得等)する方法があります。
会社それそれの事情で自己株式を取得しますが、その手続きは会社法で規定されており、手続違反は取得自体が法律的に無効になるので注意が必要です。

ここでは、オーナー企業、中小企業が株式集約のため、株主と合意して自己株式を買い取る(有償)手続き(種類株式の買取を除く)について解説します。

自己株式取得の手続

手続の際、買取りの対象を株主全員とするか、特定の株主にするかの2っの方法があります。
基本的に、会社法では全員を対象とする方法が規定され、特則的に特定の株主を対象として場合の規定が設けられています。

手続1:株主総会

自己株式を取得する場合、原則、取得数、取得対価の総額、期間(1年以内)を株主総会普通決議で決定します(過半数の賛成)。

手続2・取締役会

取得価格等を決定して実際に取得する際は、株主総会決議内容の範囲内で都度、取締役会で詳細(取得する株式数、1株と引き換えに交付する金銭等の内容、引き換えに交付する金銭等の総額、申込期日)を決めることになります。

取締役会のない会社であれば、自己株式の取得を決定する株主総会の時に、同時に詳細も決定しておきます。

自己株式を取得する際の対価は、「金銭等(当該株式会社の株式等を除く)の内容及びその総額」と会社法で規定されており、当該会社の株式、新株予約権、社債を対価とすることはできません。

手続3:通知

取締役会(又は株主総会)で決議された取得の内容を全株主に通知します。
ただし、公開会社(株式を譲渡する際、会社の承認を要しない種類の株式を規定している会社)は、公告をすれば各株主への通知は不要とされています。

手続4:株主の申込・成立

通知された取得内容に承諾した株主は、会社に対して譲渡する旨の申込をします。
この申込によって、会社は申込を承諾したものとみなされます(申込に対する会社の承諾は不要)。

株主からの申込数が、当初、総会決議で決定した取得数を超える場合、公平を期して申込をした株式数に比例して按分されます。
以上が、全体の流れになります。

この手続きは「ミニ公開買い付け」と呼ばれ、全株主を対象に行うので株主に損害を与えるおそれが低いと考えられ、比較的簡易にできるようになっています。

よって、上記の手続は非上場企業のみで、上場企業は上記のような手続きは認められていません(金商法27)。

特定株主からの自己株式取得

後継者が先代が保有している株式をそのまま相続したら相続税の課税対象となるので会社が買取る、少数株主を減少させる等々のため、特定の株主が保有している株式のみを取得しようとする場合もあります。

この場合、他の株主に損害を及ぼすことも考えられるので、上記手続きをベースに別途規定が設けられています。

手続1:株主総会

取得に関する内容は、同様に総会決議(普通決議:特定株主は議決権を行使できません。)で決議しますが、同時に取得価格等の決定通知を買取の対象となっている特定の株主対してのみ行うことを株主総会特別決議(3分の2以上の賛成)」で決定することができます。

ただし、この決定をする場合、総会の1週間前までに他の株主に買取対象に自己も加えたものを総会議案にすることを請求(売主追加請求権)できるとする通知をしなければいけないと規定されています。

この請求権は、特定株主が相続人等である場合や、定款に請求できないと規定されている場合等々、状況によって認められないことがあります。
※会社が公開会社であったり、相続人株主が1回も総会で議決権行使をしていない場合は、特定株主が相続人であっても売主追加請求ができます。相続人からの強制的株式取得はこちら参照下さい

追加を希望する株主は、総会の3日前までに会社に請求することが必要です。

手続2:取締役会

具体的に取得株式数、1株当たりの対価、取得価格の総額、期日を、株主総会決議内容の範囲内で取締役会で決定します。

取締役会のない会社であれば、自己株式取得を決定する株主総会の時に、同時に詳細も決定しておきます。

手続3:通知

取締役会(又は株主総会)で決議された取得の内容を全株主に通知します。
ただし、公開会社は公告するのみで可とされています。

手続4:株主の申込・成立

通知された取得内容に承諾した株主は、会社に対して譲渡する旨の申込をします。
申込により会社は承諾したものとみなされます。

株主からの申込数が、当初、総会決議で決定した取得数を超える場合、公平を期して申込をした株式数に比例して按分されます。

実用例

中小のオーナー企業では、当初は株式を発行して資金を調達し経営拡大を図り、経営が安定してくると経営権の確保、安定的総会運営のため散逸している株式を買い戻そうとすることがあります。

この場合、全株主を対象とすると株主に買取に応じる義務はないので目的が達成できないことがあります。

そこで、多くは、対象を特定の株主に焦点を定め、買取に応じてくれるように交渉しながら手続きを進めることになります。

この場合、応じてくれるように株主に有利な条件を提示すると、問題になるのが先に説明した「売主追加請求権」です。
会社としては、特定の株主からのみ買取したいが、この請求権を行使されると他の株主の株式も買い取ることになり、財源に制限があれば自己株式の取得自体が難しくなります。

予め、特定株主からの自己株式をする場合でも「売主追加請求権」は認めない旨を定款に規定しておくと、この問題を回避できます。
しかし、会社設立時点の原始定款にこの規定をもうけている会社は多くありません。
そして、定款を改正して当該規定をもうける場合、株主全員の賛成が必要とされているので、ハードルはかなり高いと言えます。

財源規制

有償での自己株式取得には、財源に規制があります。

資金を得るために交付した株式を対価を払って取得することは、会社の資金を株主に払い戻すことになります。
払い戻すべき資金には規制があり、自己株式取得の効力発生日における「分配可能額」を超えてはいけないとされています。
また、そもそも貸借対照表上の純資産額が300万円に満たない会社は、自己株式の有償取得はできません。
※「分配可能額」の算出は簡単ではないので、算出方法はここでは省略します。

相続税との関係

中小オーナー企業の場合、多くは株式が上場されていません。
オーナーが亡くなれば、後継者である親族が大部分の株式を相続するケースも多いです。

この場合、業績も良く優良企業だと1株当りの価値を高く評価され、相続税も大きくなり後継者が個人として支払い得る額を超えるような場合、相続税に充当するために株式の一部を会社が買い取るという自己株式の取得が行われることがあります。

相続した株式については、相続税の申告期限(死亡から10ヶ月)から3年以内の相続人から自己株式を取得した場合、みなし配当課税をしないとする特別措置があります。

通常、株主が会社に株式を売却すると、売却額の一部が配当所得 (みなし配当)となり、かなり高い税率が適用される場合があるのですが、この特別措置によって税負担が軽減されます。

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