株主所在不明の株式の取扱い
会社が長年活動していると、新たな出資者を募集するために新株を発行したり、既存の株主が第三者に株式を譲渡したり、相続が発生して複数の相続人が株式を相続したり等々で、株主の数が徐々に多くなっていく傾向にあります。
株主が死亡すればその相続人が、認知症等で意思決定ができなくなれば後見人が、株主として権利行使することになりますが、では、株主が所在不明になった場合はどう対処するか?
所在不明になった株主の持ち株比率が大きければ会社の経営にも影響します。
事業承継、合併や事業譲渡を行う場合は、放置しておくことはできません。
ここでは、株主所在不明の株式の取扱いについて、司法書士が分かり易く説明します。
所在不明株式の問題点
事業承継する、事業譲渡する、消滅会社として合併する等は、経営陣が変わることを意味します。
大企業のようなケースは別として、通常、このような場合、受ける側は経営権を取得するために対象会社の株式を全部取得することを希望します。
オーナー会社で親族で株式を持ち合っている、知り合いに出資してもらって株式を持ってもらっている、このような場合、経営権を取得しようとする会社は、取得後もこれらの株主が一部残って株主総会で議決権を行使することを望みません。
そこで、譲渡する会社は各株主から株式を買い取る等して、一括して譲渡先に渡すことが求められます。
株式をまとめる方法としては、任意に買取ったり、株主総会で株式を「全部取得条項付株式」変更して、なかば強制的に取得する等々の方法がありますが、株主がどこにいるか分からない、生死さえ分からない、というような場合、対応が難しくなります。
株主所在不明の株式があると、取得しようとする会社も取得後に当該株式に関してどのようなトラブルが発生するかもわからず、取得を躊躇することになりかねません。
所在不明株主の株式売却許可申立制度
会社法では所在不明株主がいる場合、規定される一定の要件を満たしていれば、裁判所に申立てて許可を得て、競売等により当該株式を売却することができるとされています。
この申立を「所在不明株主の株式売却許可申立」(会社法197条)と言います。
競売等によりとされているので、競売されたら落札者が新たな株主になりますが、競売せずに会社が直接取得することも特例として認められています。
特例では、市場価格のない株式について裁判所の許可を得れば競売以外の方法で売却することができ、さらに、この規定により売却する株式の全部又は一部を会社が買い取ることができる、とされています。
つまり、会社が株式売却許可申立の例外規定を使えば、所在不明株式を自社(又は会社経営者や会社を取得しようとする会社等でも可能です)で買取ることができます。
株式売却許可申立の要件
申立の要件は、以下の通りです。
- その株式の株主に対して5年以上継続して通知及び催告が到達しない。
- その株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領していない。
- 競売以外の売却が相当で、かつ、市場価格のない株式である。
- 申立に取締役全員が同意している。
- 会社が買い取る時は、買い取る数、支払う金額を会社が取り決めている。
- 会社が、対象株式の株主や利害関係人に、一定期間内(3ヶ月以上)に異議をのべることができる旨を公告、かつ、各株主に催告している。
- 売却価格が相当である。
要件1.通知・催告が到達しない
会社は株主に対して、株主総会の招集通知はもとより、いろいろなケースで株主に通知、催告することがあります。
そのとき、通知を発送しても、あて先の住所に受取人が居住していないとして戻ってくることがあります。
この状態が5年間、継続していることが要件になります。
通知等は株主総会招集通知等のようなものだけでなく、会社法に基づかない通知も含まれるとされいます。
5年の期間は断続したものの合計ではなく、継続していることが必要で、この期間に会社法で規定される通知・催告が全て行われ、全てが不到達であることが必要です。
ですので、少なくとも期間中に開催される全ての株主総会の招集通知の不到達が必要になるでしょう。
また、5年の期間は、最初の不到達日が起算点となり、5年経過した後に発生した不到達までとなります。
不到達で戻ってきた通知等は、許可申立時に裁判所に提出することになるので、大切に保管しておきます。
事業譲渡等のため全部の株を取得しようとした会社が、この制度を使って所在不明株式を取得するにのに5年という期間は長すぎるでしょう。
また、中小企業やオーナー企業では、株主総会において招集通知をしていない場合も多いです。
そこで、上場会社等以外の中小企業に対して、以下の要件充足(都道府県知事の認定が必要)で期間を1年に短縮できる特例が設けられています。
- 経営が困難な状態である。
経営者が年齢、健康、その他の事情により経営が困難であり、事業活動に支障が生じている。 - 円滑な承継が困難
一部の株主が所在不明のため、代表者以外に経営を円滑に承継するのが困難である。
要件2.5年間剰余金を受領していない
剰余金の受領も、不到達と同様に5年間連続して受領していないことが要件になります。
中小企業の場合、剰余金を配当していないことも多いでしょうから、その場合はその期間も含めて5年間として計算し、配当していことを疎明することになります。
受領していないことの疎明は、剰余金配当通知書が不到達で戻ってきた通知書を提出することになります。
また、通知・催告の5年の不到達と同様に、剰余金についても5年を1年に短縮する特例があり、要件は同じです。
要件3.競売以外の方法が相当、かつ、市場価格がない
市場価格がない株式が、いきなり競売によって当該会社の価値を適正に反映した価格で落札されることはないでしょう。
そこで、基本的に、競売以外の方法が相当であることに特に疑義がない限り、相当性を疎明することは要しないとされています。
ただし、株価の算定が恣意的に安く計算されていたり、適正価格で落札する第三者が存在しているような場合は、疑義となりうるので競売されるおそれが高くなります。
要件4.5.取締役の全員の同意、会社の取決め
取締役が2人以上いる場合、申立について全員が同意していることの疎明として各取締役の同意書や取締役会議事録を提出します。
買取数や額の取決めについても同様です。
要件6.異議を述べることができる旨の公告と催告
公告は、通常、官報公告にて行います。
公告及び催告の内容は、会社法、会社法施行規則等に従って記載することになります。
対象株式が共有状態になっている場合、催告は共有者全員に対して行います。
要件7.売却価格が相当である
競売がベースにあり、それに代えての売却なので競売価格が基準になり、同程度以上の価格が必要になります。
通常、公認会計士が作成した株価算定意見書を価格の根拠として提出することになります。
申立
申立先は、本店所在地を管轄する地方裁判所になります。
申立書には、申立の趣旨、理由、要件を満たしていることを疎明する資料の一覧を記載し、資料と共に裁判所に提出します。
裁判所の審理の結果、売却許可が決定されたら、所在不明株主は株主としての地位を失い、会社は売却額を管轄法務局に供託して株式を取得します。
要件を満たしていない場合
要件を満たしていないと株式売却許可申立制度が使えないので、他の方法を検討します。
この場合、考えられるのがスクイーズ・アウト(締め出し)です。
これは、会社の少数株主に対して金銭等を交付して排除し、大株主のみとするための方法ですが、これを使って所在不明株式の株主に金銭等を交付して(株主は所在不明なので供託することになります)会社が当該株式を取得します。
方法としては、特別支配株主による株式等売渡請求制度を利用したものと、株式併合を利用したものの2つがあります。
内容はかなり専門的なので、ここでは詳細を控えます。
まとめ
子供に事業を承継させる、会社を第三者に譲渡するような場合、承継・譲渡後、安定的に事業を行ってもらうには、所在不明株主の株式の処理は、現経営陣が責任をもってクリアにしておく必要があります。
株式売却許可申立制度を利用できたとしても、公告手続きだけで最低3ヶ月必要です。
所在不明株主が存在しているが現在は事業活動に支障がないとしても、事業承継・事業譲渡が必要になってから手続きを開始すると、かなりの時間を要することになるので、所在不明株の割合が多いと感じた時は、当該制度を利用して所在不明株式を解消することをご検討下さい。
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