事実婚

内縁関係にあるご夫婦のほか、事実婚(婚姻届けを提出していないので法律上の婚姻関係はないが、夫婦として共に暮らし事実上の婚姻関係の状態にあるご夫婦)状態にあるご夫婦も増えてきました。

ここでは、内縁のご夫婦、事実婚夫婦の相続についてご説明します。

内縁・事実婚の相続

いろいろな理由で婚姻届を役所に提出していないので、権利関係面で法律上の婚姻関係にあるご夫婦とは異なる部分が生じます。

その中で、ご夫婦にとって大きな影響があるのが「相続」です。

何十年も生活を共にしても、内縁関係にあるご夫婦、事実婚夫婦において、配偶者に相続権は認められていません。

互いにサポートし合って形成した(夫名義の)財産に対して、婚姻届けを出していないという理由のみで妻には相続権が一切認められていません。

法律上の婚姻関係にある夫婦が離婚をする場合、基本的に婚姻後に形成された財産は夫婦共有財産として財産分与の対象になり、この財産分与の権利は内縁関係、事実婚状態にある妻にも認められています。

しかし、相続に関しては、「法律上の婚姻関係」にないと認められません。

夫に法定相続人(妻、子、親、兄弟姉妹)がいれば、その方たちで「遺産の全部」を相続することになります。

対応策

では、内縁・事実婚妻に遺産を渡すにはどうするか?

一番の対応策は、「遺言書」になります。

自分になにかあった場合、自分名義の全財産をパートナーに遺贈する遺言書を作成することでパートナーが遺産を取得することができます。

ただし、法定相続人は遺留分を請求する権利があります。

兄弟姉妹を除く法定相続人から遺留分を請求されると拒否することはできませんが、遺言書がなければ何も取得できないので、遺言書の存在はとても重要になります。

また、日頃から、財産をパートナー間で分散所持しておく方法もよいでしょう。

パートナーに起因する財産はパートナー名義で所持しておけば、遺産にはなりません。

パートナーに生前贈与しておく方法もあります。

相続人に対する贈与は「特別受益」の対象となり、遺産分割時にその分が問題になることがありますが、パートナーは相続人ではないので「特別受益」には該当せず、法定相続人から遺産として返せと言われることはありません。

※亡くなる1年位以内にされた贈与は、遺留分を計算する上では遺産に含まれことになります。
また、双方が遺留分を害することを知って行った場合は、1年の期間制限がなくなります。

遺言書の注意点

パートナーに遺言書を作成する場合、パートナーは相続人ではないので「相続させる」ではなく「遺贈する」と書きます。

遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類あります。

遺産の全部、または2分の1とか3分の2というように包括的に指示して遺贈することを包括遺贈と言います。

○○の土地、〇〇銀行の預金等々と具体的に遺産を特定して遺贈することを特定遺贈と言います。

パートナーに対して「包括遺贈」をした場合、そのパートナーは相続人と同じ立場になるとされています。

例えば、「パートナーに遺産の3分の2を遺贈する」とした場合、パートナーは包括受遺者として他の法定相続人と遺産分割協議をして遺産の中から3分の2を取得することになります。

全部を遺贈するとした場合も同様で、相続人であれば他の相続人が関与することなく単独でできる手続きも、パートナーは相続人ではないので単独で相続手続きをすることはできず、法定相続人の協力が必要になります。

遺産に不動産があれば、当該不動産を遺贈を原因としてパートナー名義に変更するには、法定相続人の全員と共同で登記申請しなければいけません。

このような手続きは、パートナーにとってかなり精神的負担になるのではないでしょうか。

そこで、法定相続人の関与を回避するには、遺言書で「遺言執行者」を指定しておきます。

「遺言執行者」は法定相続人に替わって受遺者と手続きをすることができるので、受遺者の負担もかなり軽減されるでしょう。

※法定相続人がいる場合、婚姻関係にない者が故人の財産を取得することを快く思わない方もおられ、遺言書があっても異議を申し立てるケースの想定されます。
遺言書の適法性をあげるためにも、公正証書による遺言書の作成をおススメします。

内縁、事実婚間でお子さんがいる場合

法律上の婚姻関係にない内縁、事実婚状態で子供が産まれた場合、その子供は母の戸籍に入り、母の非嫡出子となります。

そのままの状態にしていれば、実の子であっても子と内縁夫とは法律的には何も関係ないものとして扱われ、実子であっても内縁夫の相続権は認められません。

相続権を得るには、内縁夫に認知してもらう必要があります。

認知する前に亡くなったとしても、死後認知の制度を使って認知してもらうことができます。

法定相続人がいない場合

お子さんも親、兄弟姉妹もいなければ「相続人がいない」という状況なので、遺言書が無ければ基本的に遺産は国庫にいくことになります。

この場合、パートナーとしてとれる方法は、相続財産管理人の申立をして、自分が特別縁故者であることを裁判所に認めてもらうことで、遺産を取得することができます(どの位の割合で取得できるかは、裁判所が個別に判断することになります。)。

故人との関係、どのように故人と生活していたか、どのようにサポートしていたか等々を裁判所に説明しなければならず、期間も1年近くかかってしまいますので、特別縁故者の申立は簡単ではありません。

この点からも、遺言書を残しておくことが重要になります。

内縁夫の離婚が成立していない

法律上の妻がいる方が、別の女性と内縁関係になり、離婚しないまま長期に渡って内縁妻と共に生活しているような状況もあります。

この場合、法律上の妻が存在しているので、夫婦としては破綻していても、その妻には相続権が認められます。

つまり、遺言者がなければ内縁・事実婚夫の遺産は全部法律上の妻が相続することになります。

それを回避するには遺言書が必須です。

ただし、遺言書で全部を内縁妻に遺贈するとしても、妻から遺留分を請求される可能性は高いので、請求された場合に備えて遺留分相当額を準備しておいた方がよいでしょう。