抵当権

不動産を担保にお金を借りる行為はめずらしくありません。
金融機関からお金を借りて家やビルを建てるとき、当該家やビル、敷地である土地を担保にします。

この場合、家やビル、土地に抵当権又は根抵当権が設定されます。
通常、住宅ローンで家を建てる場合は抵当権が、ビルやマンション等事業に供するものを建てる場合は根抵当権が設定されることが多いです。

融資た金融機関は(根)抵当権者、借りた側は債務者であり、担保不動産の所有者は(根)抵当権設定者になります。
※借りる人と担保を提供する人が異なる場合もあります。例えば、子供が借入をする際、親が自分名義の家を担保にするようなケース。

債務者兼設定者である者が亡くなれば、担保に関しても相続が発生します。

不動産登記簿(登記事項証明書)を見れば、どちらの担保が設定されているか分かります。
相続手続きは抵当権と根抵当権では異なるので、まず、登記簿で確認する必要があります。

抵当権の相続手続き

抵当権が設定されている不動産の所有者兼債務者が亡くなると、当該不動産は遺産として相続の対象になりますが、この場合、2つの相続が生じることになります。

一つは、抵当権が設定されている不動産の所有に関する相続。
もう一つは、債務者に関する相続です。

不動産は遺言書や遺産分割協議で決めた内容に従って、相続する者の名義に変更する相続登記を申請(相続する者による単独申請)をします。

抵当権の債務(ローン等の借金)が完済されていれば(完済しても抵当権の抹消を放置している場合があります)、相続登記をする前に金融機関から必要な書類を交付してもらい抵当権の抹消登記を行います。

完済されていない場合は、債務者に関する相続登記(債務者を故人から相続人に変更する)をします。

抵当権債務者の変更

相続人が1人であれば、相続を原因として相続人を新たな債務者として登記することになります。

相続人が複数人の場合は、注意が必要です。
相続人全員が債務者として相続するのであれば、そのまま登記すれば済みますが、特定の相続人が債務者と決めた場合はすぐに登記をすることはできません。

相続人間で協議して借金を引き継ぐ債務者を特定の相続人に決めても、その効果は債権者である貸主には影響しません。
貸主は相続人の協議内容に関係なく、全相続人にその法定相続割合分を請求できます。

協議の内容は相続人間では有効ですが、貸主に対しても有効にするには貸主の承諾が必要です。

相続人がA、Bの2人のケースで検討します。
2人で協議して抵当権付き不動産をAが相続し債務もAが引き継ぐと決めた場合、その内容を抵当権者(貸主)である金融機関に承諾してもうらう必要があります。

また、抵当権の債務者を故人からAに変更する登記申請は、Aと抵当権者である金融機関との共同申請なので、この点からも金融機関の承諾、協力が必要になります。
※抵当権付不動産の相続登記は、A単独で登記申請できます。

変更手続の流れ

手続としては、まず、相続人間で協議して抵当不動産とその債務を相続する人を決めます。
次に、抵当権者である金融機関に債務者が亡くなった事、それを相続人であるAが単独で相続したい旨を伝えて承諾してもらいます。

抵当不動産の担保価値、残額、Aの収入状況等を検討して、追加の担保や連帯保証人等を求めたり、承諾しない場合もあり得ます。
承諾されなかったら、相続人全員が法定相続割合による債務者となる登記をすることになります。

金融機関の承諾を得れば、金融機関から申請に必要な書類を交付してもらい、形としては金融機関と相続人Aとの共同申請で債務者変更登記を行います。

遺産分割協議の有無で申請は変わる

遺産分割協議で相続人Aが債務を引き受けることを決めた場合、相続を原因とする故人からAへの債務者変更登記申請をします。

遺産分割協議をしていない場合は、相続人全員が債務を相続することになるので、まず、相続人全員が債務者となる変更登記(相続人の単独申請)をした後、Bが相続した債務をAが引受ることでAが単独の債務者となる変更登記(金融機関との共同申請)をします。

根抵当権の相続手続き

根抵当権についても、基本的に抵当権とは変わりません。
根抵当権が付いている不動産も相続人単独で相続登記できます。

根抵当権債務者の相続

根抵当権債務者が亡くなれば、相続が発生するのは抵当権と同様ですが、根抵当権特有の性質により抵当権とは異なる手続きが必要になります。

抵当権は、例えば、500万円を借入、その担保として不動産に抵当権を設定します。
担保される額(被担保債権)は500万円で固定です。

対して、根抵当権は極度額(借入最大額)500万円までの借入額を担保するものとして、不動産に設定します。
つまり、500万円の範囲内で被担保債権は流動することになります。

例えば、5月に500万円を極度額とする根抵当権を設定し200万円を借りたら被担保債権額は200万円、6月に追加で200万円借りたら被担保債権額は400万円、7月に100万円返済したら被担保債権額は300万円と、被担保債権は一定ではありません。

この根抵当権特有の性質が相続手続きに影響します。

根抵当権債務者の相続

先に述べたように根抵当権の被担保債権は固定されていないので、債務者が死亡して相続が発生した場合、相続して新たな債務者となる者が引き受ける債務は、どの時点の債務(被担保債権)なのかが問題になります。

根抵当権は確定期日の到来等、いくつかの要件により被担保債権が元本として確定されます。
債務者が亡くなる前に元本が確定していれば、相続人は確定した元本(利息も含む)を相続します。

元本が確定していない場合の相続

元本が確定していない状態で債務者が亡くなった場合、基本的には元本は相続開始の時に確定したものとみなされます
債務者が亡くなった時点の被担保債権額が元本として確定されることになります。

しかし、債務者の立場を相続する相続人の中には、元本を確定させずに極度額範囲内で引き続き借入を行いたいと希望する方もおられます。
その場合、相続の開始後6ヶ月以内に指定債務者の合意をして登記すれば、元本確定を回避することができます。

指定債務者とは、相続後の当該根抵当権の債務者として新たに指定された者を指します。
相続人の中から指定された者(複数でも可)が、現行の根抵当権を引き継ぎ新たな債務者となります。

まず、相続人間で指定債務者を決め、最終的には根抵当権者と合意して決定し、その旨の登記(合意の登記)をします。

登記手続きとしては、債務者死亡により相続人全員を債務者として登記(単独申請)した後、根抵当権者と根抵当権設定者(所有者)とで指定債務者の合意の登記(共同申請)をします。
※この合意の登記が相続開始から6ヶ月以内にされないと、根抵当権は自動的に相続開始時において元本が確定されることにないます。

また、注意すべきポイントとして、指定債務者が相続前の全ての債務を引き受けるようにするためには、債権の範囲の変更登記が必要になります。

債務者の相続人がA、Bの2人の場合、債務者が亡くなると法定相続割合で債務を分割して相続します。
そして、Aが指定相続人になり、Bが相続した債務をAが免責的に引き受ける(Bは債務の返済義務から免責される)ことになりますが、このBの債務は現状のままだと当該根抵当権で担保されない債権となります。

また、債務者がAに変わることで変更後のAと根抵当権者との間で生じる債権は当該根抵当権で担保されますが、変更前にAが故人から相続した債務も担保の範囲外になっています。

そこで、これらの債権が当該根抵当権で担保されるように担保対象である債権の範囲の中にこれらの債権を含めるため、以下の様な債権の範囲の変更登記をします。
「年月日債務引受(旧債務者B)にかかる債権」
「年月日相続によるAの相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権」

まとめ

以上のように抵当権、根抵当権が設定されている不動産の相続は、不動産だけでなく債務、債務者の地位の相続が絡むので簡単ではありません。

債務者に関する登記でも、「債務者」か「連帯債務者」、「免責的債務引受」か「重畳的債務引受」として登記するかで、責任・義務の内容も大きく変わります。

相続に関して少しでも疑問、不安を感じられる場合は、迷わず専門家である司法書士にご相談下さい。

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